犬を飼っている人なら、わかると思う。
朝、リビングでコーヒーを淹れようとした瞬間、前脚で突進してくるあの圧。うちのテトは「散歩に行こう」を全身で主張する犬で、こちらの準備が整っているかどうかなんて知ったことではない。
リードをつけて、毎朝20分ほど近所を歩く。これがもう何年も続いている日課だ。
で、その20分間、頭の中はどうなっているかというと——昨日やり残した仕事のこと。今日の会議で何を言うか。午前中に片付けたいメールの返信。週末までに出さないといけない報告書。そういうのがぐるぐる回っている。
身体は散歩しているのに、脳はもう出社している。同じような朝を過ごしている人、けっこういるんじゃないだろうか。
今回は、その散歩の時間を、ちょっとした仕組みで「1日で一番クリアな時間」に変えた話を書く。使うのはiPhoneのショートカットとClaudeだけ。追加費用はゼロ。設定手順も全部載せるので、気になった人は明日の朝から試せる。
目次
- きっかけは「散歩中の独り言」だった
- やっていることはシンプル——歩きながらAIに話す
- 仕組みの全体像(iPhone×ショートカット×Claude)
- 設定方法:ショートカットの組み方【全手順】
- プロンプト全文(コピペで使える)
- 1週間やってみて変わったこと
- テトが止まるたびに、思考も止まる——それがいい
- まとめ
きっかけは「散歩中の独り言」だった
ある朝、テトが電柱の前でいつものように匂いを嗅いでいるとき、ふと口に出た。
「今日、午前の会議で予算の話する前に、あの資料見直しとかないとな……」
独り言だ。誰に言うでもなく、ぼそっと呟いた。
テトは当然反応しない。電柱の匂いのほうが優先だ。でも不思議なことに、声に出した瞬間に、頭の中のモヤモヤが少しだけ輪郭を持った気がした。
——これ、AIに聞いてもらえばいいんじゃないか。
以前から仕事でAIの音声入力は使っていた。会議の文字起こしに使ったり、Power Automateの朝通知と連携させたり。でも「散歩中に、自分の頭の整理のためにAIに話しかける」という発想はなかった。
試してみたら、これが想像以上にハマった。
やっていることはシンプル——歩きながらAIに話す
仕組みは拍子抜けするほど単純だ。
散歩に出る → ショートカットを起動 → 歩きながら思いついたことを喋る → AIが整理して返してくれる
喋る内容は、本当に雑でいい。
「今日の午前中にあのメール返さなきゃ」「〇〇さんへの共有が先だな」「あ、あの件は今週中でよかったっけ」「水曜のプレゼン資料のデータ、まだ集まってない気がする」——こんな調子だ。
文章として成り立っていなくてもいい。順番もバラバラでいい。考えながら、思いつくままに喋る。
散歩が終わるころには、AIがこんな形に整理してくれている。
■ 今日のToDo(優先度順)
1. 〇〇さんへのメール返信(午前中)
2. プレゼン資料のデータ収集(水曜まで・今日着手)
3. 予算会議の事前資料を確認
■ 判断が必要なこと
・△△の件の進め方:A案(自分で対応) or B案(チームに振る)→ 判断材料は〇〇のデータ
■ 今日じゃなくていいけど気になっていること
・来月のレポート構成を考え始める
■ ひとこと提言
午前中にメール返信を片付けて、午後の会議に集中できる状態を作るのがよさそうです。
散歩から帰って、手を洗って、コーヒーを淹れるころには、もう1日の段取りが決まっている。
出社してPCを開いた瞬間に、やることがクリアな状態。これが、思った以上に心の余裕を作ってくれる。
仕組みの全体像(iPhone×ショートカット×Claude)
使っているのはiPhoneに最初から入っている「ショートカット」アプリと、Claudeアプリだけ。追加の課金や特別なアプリは一切不要だ。
用意するもの
- iPhone(ショートカットアプリは標準搭載)
- Claudeアプリ(無料版でOK)※ ログイン済みであること
- ワイヤレスイヤホン(あると便利。なくても可)
ショートカットの中に「音声入力 → プロンプトと結合 → Claudeに自動送信 → Claudeアプリで確認」という流れを組んでおく。一度作ってしまえば、あとは毎朝ワンタップするだけだ。最後にClaudeアプリが自動で開くので、散歩から帰ったらそのまま整理結果を確認できる。
設定方法:ショートカットの組み方【全手順】
初めてショートカットを触る人でも迷わないよう、1ステップずつ書く。
STEP 1:新規ショートカットを作成する
「ショートカット」アプリを開く → 右上の「+」をタップ → 上部の名前を「朝の思考整理」に変更する。
STEP 2:「テキストを音声入力」を追加する
画面下の「アクションを検索」に「音声入力」と入力 → 「テキストを音声入力」を選択。
設定で「聞き取りを停止」を「タップ時」に変更する。これが重要。「一時停止後」だと、少し黙っただけで入力が止まってしまう。「タップ時」にすれば、自分で停止ボタンを押すまで、ずっと聞き続けてくれる。
STEP 3:「テキスト」アクションでプロンプトを用意する
「アクションを検索」に「テキスト」と入力 → 「テキスト」を選択。
ここに、AIへの指示文(プロンプト)を書く。詳細は次のセクションに全文を掲載するので、そのままコピペでOK。
ポイント: プロンプトの末尾にある「音声メモここから」の下に、STEP 2の「音声入力されたテキスト」という変数(マジック変数)を挿入する。テキスト入力欄をタップすると、上のアクションの出力が候補として表示されるので、それを選ぶだけだ。
STEP 4:「Claudeに質問する」を追加する
「アクションを検索」に「Claude」と入力 → 「Claudeに質問する」を選択。
入力欄に、STEP 3で作った「テキスト」変数を挿入する。
これにより、プロンプト+音声メモがClaudeに自動送信され、整理結果が返ってくる。
設定は以下の通り:
・「実行時に表示」→ ON(結果をすぐ画面で確認するため)
STEP 5:「Claudeを開く」を追加する(これが地味に大事)
「アクションを検索」に「開く」と入力 → 「Appを開く」を選択 → アプリに「Claude」を指定。
最後にこれを入れておくと、処理が終わったあとに自動でClaudeアプリが開く。散歩から帰って手を洗ったら、そのままスマホを見るだけで整理結果が表示されている状態になる。追加で「これの優先度をもう少し詳しく」と聞きたければ、そのまま会話を続けられるのもいい。
完成形のアクション順序
ショートカットの構成(上から順に)
- ① テキストを音声入力(聞き取り停止:タップ時)
- ② テキスト(プロンプト + 音声入力されたテキスト変数)
- ③ Claudeに「テキスト」を質問する
- ④ Claudeを開く
たった4つのアクション。これだけで完成する。
プロンプト全文(コピペで使える)
以下をそのまま「テキスト」アクションにコピペすればいい。
プロンプトは好みに合わせて調整していい。「判断が必要なこと」の部分が不要なら削ればいいし、「今週の残タスク」を追加してもいい。自分が朝一で欲しい情報に合わせてカスタマイズするのがコツだ。
応用:記録を残したい人向け
プロンプトの末尾に「この内容をGmailに自分宛に送って」と一文追加しておくと、整理結果がメールでも届く。出社後にPCで見返したいときに便利だ。
1週間やってみて変わったこと
出社前の「頭の中のガチャガチャ」がなくなった
これが一番大きい。以前は電車の中でもまだ「今日なにからやろう」と考えていた。今は散歩の時点で整理が終わっているから、通勤時間は音楽を聴いたり本を読んだりする余裕ができた。
「あ、あれ忘れてた」が減った
頭の中だけで段取りしていると、PCを開いた瞬間に飛び込んできたメールやチャットで上書きされる。でも散歩中にいったん全部吐き出してあると、優先順位がブレにくい。
管理職の「判断疲れ」が軽くなった
今の仕事は売上管理やガバナンス関連で、日中は判断の連続になる。朝のうちに「今日判断が必要なこと」がリストアップされていると、不意打ちの判断要求に振り回されにくくなった。
逆に言えば、これまでの自分は「朝の散歩」と「出社後の仕事」を完全に分断して考えていた。でも実際には、散歩の20分で脳は勝手に仕事のことを考えている。それなら、その思考をAIに拾ってもらったほうが、よほど健全だと気づいた。
テトが止まるたびに、思考も止まる——それがいい
1つ、予想していなかった副産物があった。
テトは散歩中にしょっちゅう立ち止まる。電柱、草むら、他の犬の匂い。こちらの都合なんてお構いなしだ。
最初は「テト、早く行こう」と思っていた。喋っている途中で止まられると、思考が中断される。
でも何日か続けるうちに、むしろこの「中断」がいいと思えてきた。
デスクで仕事をしていると、思考は止まらない。次から次へとタスクが流れてきて、頭の中が走り続けている。でも散歩中は、テトが止まれば自分も止まる。空を見上げる。風を感じる。で、また歩き出すと、さっきの思考が少しだけ整理されている。
この「強制的な間」が、むしろ思考の質を上げている感覚がある。
AIに全部を任せているわけじゃない。自分で声に出して、テトの歩調に合わせて考えて、止まって、また考える。AIはその過程を記録して整理するだけ。「考えること」は自分でやっている。
まとめ
この記事のポイント
- 犬の散歩の時間を、iPhoneショートカット×Claudeで「思考整理タイム」に変えた
- 設定はショートカット4アクションだけ。追加費用ゼロ
- 最後にClaudeアプリが開くので、帰宅後すぐ結果を確認できる
NFC記事では「ハードウェア(シール)で暮らしの面倒を消す」話を書いた。今回は「ソフトウェア(AI+ショートカット)で頭の中の面倒を消す」話だ。
どちらも共通しているのは、「仕組みで考えなくていいことを増やす」という考え方。大げさな変化じゃない。でも毎朝の小さな習慣が、1日全体の動き方を静かに変えてくれる。
今日からできること: Claudeアプリをインストールして、明日の朝の散歩で一度だけ試してみる。ショートカットを作るのが面倒なら、Claudeの音声モードで直接話しかけるだけでもいい。
今朝もテトは、玄関で尻尾を振って待っていた。
リードをつけて外に出る。イヤホンをつけて、ショートカットを起動する。「えーと、今日はまず午前中にあの件を……」と喋りはじめた瞬間、テトが電柱に突進する。リードが引っ張られて、思考が途切れる。
——ま、いっか。またすぐ続けられるし。
テトが満足するまで待つ。空が明るくなっていく。もう少ししたら、整理された1日が始まる。

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